なぜ、人間だけが「農業をする」のでしょうか?それは、人間だけが“夢”を見るからです。
「農業をする」ということは、「未来の“快楽=夢”」 を予測して、そこに到達するための様々な計画を立て、状況の変化をシミュレーションしながら、それに対するベストな対応を選んで、一つ一つ実行していくというプロセスを必要とします。
■“ご飯”は“夢”である
米作りを例にとってみましょう。ご飯を食べるという“快感”にまでたどりつくためには、ヒトは、様々なステップを重ねなければなりません。「田んぼを作り」、「水を張り」、「苗代をつくり」、「田植えをし」、「田の草をとり」、「稲刈りをし」、「乾燥し」、「脱穀し」、「精米して」、「米を炊いて」…やっと、ご飯を食べるという“快感”つまり、“夢”が実現するのです。
人間の脳は米作りの様々な行程をイメージし、組み合わせて、台風や日照りなどの不測の事態も考慮しつつ収穫までの農作業の計画を作るのです。これらの「農作業のイメージ」を、ヒトはあたかも階段を上るように一つ一つクリアして、やっと「ご飯を食べる」という夢を実現します。私はこの“夢”に至る様々なイメージを「ステップ(階段)イメージ」と名付けています。人はステップイメージを一つ一つ実現して“夢”にたどり着くのです。ステップイメージをクリアするたびに、ヒトは“快感”を受けとります。
まとめて言えば、ヒトは、「夢という極めつきの快感を実現するまでのストーリーを、ステップイメージを積み重ねて計画し、それをクリアすることによって、その都度、快感を得ながら、夢に近づいていく」のです。
■“マネッシーくん” 再登場
ステップイメージを計画しただけでは夢は実現しません。ここで、人間を人間たらしめているあの細胞が再登場します。私が“マネッシーくん”と呼んでいる神経細胞“ミラーニューロン”です。
“マネッシーくん”は言葉、顔、行動、イメージ、そのほかマネできるものは全てマネします。だからもちろん、ステップイメージもマネします。マネしているうちにそれが実現します。以前の回で述べた「マネしているうちにそうなる」というあれです。私は、この現象を“ペルソナ・マジック”と呼んでいますが“マネッシーくん”は、「マネしているうちに“ペルソナ・マジック”を引き起こし、ステップイメージを次々に実現させている細胞」なのです。
■“マネッシーくん”の唯一の弱点
こうして見てくると、何だかすごくオールマイティーに見える“マネッシーくん”ですが、一つだけ弱点があります。「マネするものがなければマネできない」のです。“マネッシーくん”は、自分ではステップイメージを作り出すことはできないのです。“マネッシーくん”は人間の脳が作り出したステップイメージがあって初めてそれをマネできるのです。そのステップイメージを“マネッシーくん”がマネして実現していると、それが積み重なって、階段(ステップ)を次々に上っていくようにして“夢の実現”に至るのです。
これまでのことを簡単にまとめれば、“晴顔”で夢見た“夢の快楽情報(ドーパミン)”は「“ドーパ発信局”の腹側被蓋野(ふくそくひがいや)」から、全身に伝えられ、脳はその快感を実現するためのステップイメージを作り、“マネッシーくん”がそれをマネして、夢を叶える。これが、“晴顔”が、“人間の夢”を叶えるプロセスです。これまで見てきたいろんなキャラが連携して夢を実現に導いていきます。これを「“顔で夢実現”のシステム」と呼ぶことにしましょう。
次回は、大谷翔平選手の“夢実現のプロセス”をご紹介します。たくさんのステップイメージが出てきます。
●プロフィール
なかむら・かつひろ1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”